バスがガタンと揺れて、おっと思う開もなくつないでいた娘の手が離れた。ころぶと思ったその瞬間、娘の小さな両脇をスッと支えた華奢な手があった。ホープ、大丈夫?と声がして、見ると背の高い少女が娘を抱き起こしてくれていた。細かく段をつけて、もみあげをわざと長めにカットしたショートヘア。ほんの少し色褪せたようなベージュがかった薔薇色の太うねコーデュロイのコートは、大きいテーラードカラーで、ウエストから裾に向かってAラインが花開いている。その下に伸びた薄茶色のパンツの裾もまた広がったベルボトム。丸いポコンとした爪先の、ぶ厚い底の靴がそこから覗いていた。化粧っ気のない頬は健康的な色に輝いている。淡いリップクリームを塗っただけの小さな唇が素朴なかたちに開いて、六歳の私の娘に向かって、「だいじょうぶだよね、うん、げんきげんき」などとハスキーな声で話しかけている。しばらくして座席が空くと、彼女は娘を座らせて自分はその脇に立ち、何やらゴソゴソと持っていた紙袋に手を入れた。彼女が取り出したものは、小さな赤いマスカスだった。珍しそうに見つめる娘に、彼女ぼそっとマラカスを振ってみせた。ね、これ、いい音するでしょう?マラカスっていうのよ。そしてまるで楽しい夢の続きでも話すかのように、ふと、視線を宙に泳がせて、彼女は小さく呟いた。ああ、早く帰って、これで思いっきり踊りたいなあ!細い体に七〇年代風のおしゃれがよく似合っていた。ペルボトムのパンツをはくことと、マラカスを振って踊ることは、彼女の中できっと同じ格好よさなのだろう。自分の小さな部屋の中でひとり踊るのだろうか。休みの日に、心ゆくまで流行の格好をして、ひとりきりマラカスを買いに行く少女。その姿に、私はいつしか本当の七〇年代、高校生だった頃の自分を重ねていた。